判例から学ぶこと~ジェットスター賃金制度改定事件~
2026.03ジェットスター・ジャパン(格安航空会社)の賃金制度改定をめぐる判決が、昨年(2025年)9月11日に東京地裁で言い渡されました。業績悪化や最低賃金の上昇、物価高騰への対応など「賃金制度の見直し」は、多くの企業が直面している課題です。不利益となるような制度変更は特に注意が必要です。今回は、未払い賃金の支払いを命じた本件判決から、実務上の注意点を整理します。
事件の概要
客室乗務員(CA)15名が、会社による賃金制度改定は一方的な不利益変更であるとして、減額分の支払いを求めて提訴しました。主な変更内容は次のとおりです。
2020年:役職手当を勤務日数に応じて支給する制度へ変更
2021年:基本給を時給制から固定給制へ変更 ⇒ 規程変更に伴い、一部手当を不支給に
その結果、最大10%、平均6%の賃金減額となりました。
判決のポイント
東京地裁は、賃金体系変更の「合理性」を認めず、原告15名に対し約1,200万円の支払いを命じました。裁判所は、以下のように判断しました。
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最大10%、平均6%の減額は「相応の不利益」である
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制度変更の必要性や内容の相当性の説明が十分とはいえない
⇒労働組合から制度変更について反対意見が出ていたにも関わらず、減額の根拠を示さず、十分な交渉が尽くされていない。 -
社員へ個別に合意を取る過程にも問題があった
⇒不同意者の氏名を公表したことや、本部長との面談を繰り返し行い、合意を求めたことなど、人によっては圧力と受け取られかねない対応があった。
賃金は労働条件の中でも最も重要な要素であり、減額には極めて高いハードルがあることが改めて示された判決といえます。減額幅の妥当性判断に一定の示唆を与えるものといえるのではないでしょうか。
労働条件の不利益変更のルール~法律にはどう書かれている?合理性とは?~
使用者は労働者の合意なく不利益変更はできないと定めています。(労働契約法第9条)
例外として、変更後の就業規則を労働者に周知し、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性(会社の経営維持の必要性など)、変更後の就業規則の内容の相当性(社会通念上妥当か)、労働組合や社員への交渉の状況(説明努力)、その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであると判断されれば、個別に合意していない社員にも変更後の就業規則が適用されると定められています。(労働契約法第10条)では実際に、合意しない社員がいた場合は、どうすればよいか。制度変更に従わないことのみを理由として懲戒処分を行うことは、トラブルを招くことになりかねません。合意できない理由を確認し、変更の必要性を説明する。意見を聞いたうえで、会社として制度の修正案を検討する必要があります。修正案を元に社員との対話を重ねていくことが重要です。
会社がやらなくてはならないこと
賃金制度を見直す際は、 (1)減額の必要性を客観的資料で説明できるか(2)不利益を最小限に抑える工夫をしているか(3)代替措置や経過措置を設けているか(4)十分な説明と協議を尽くしているか(5)「形式的な同意」ではなく、実質的な合意ができているか が必要です。「経営判断だから仕方ない」では通用しません。制度変更そのものよりも、その過程が適切だったかどうかが裁判では厳しく問われます。賃金制度の改定は、企業経営上避けられない場面があります。しかし、進め方を誤れば、多額の未払い賃金のリスクを負うことになります。制度設計の段階から、合理性と対話を意識することが重要です。
